読めばわかるコラム:[Biz小説]第7話:『訊く』 前に 『聴く』!

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ここはプロプロ株式会社。新入社員のB作は、営業の壁にぶち当たっていた。セオリーはわかっているのだがいざ実践となるとうまくやろうとするあまり、焦りが先に立ってしまう。
上司のC一郎はB作の先輩であるDキルに「やり方だけを教えるのではなくB作の『心の内側』をケアするように」とアドバイスし、ロープレ(ロールプレイング)を提案する。(第6話:「わかる」と「できる」の深い溝)

C一郎の助言を受け、DキルはB作の「心のブレーキ」を外すための方法を考えていた。知識はある、意欲もある。しかし、失敗を恐れる心がスキルの発揮を妨げている。翌朝、小会議室では二人のロープレが始まろうとしていた。B作の「わかる」が「できる」に変わるための、新たな挑戦の幕開けだ。

Chapter 1:ロープレで見えた「心のブレーキ」

「よし、B作君。昨日のK社との商談を再現してみよう。俺が部長役をやるから、いつものように『上下の質問』を意識して始めてみてくれ」

Dキルの言葉に、B作は「はい、お願いします!」と力強く応えた。しかし、その表情はどこか強張っている。

ロープレが始まると、B作は手元のノートに目を落とし、準備してきた質問を一つずつ「こなして」いった。
「生産プロセスについて、具体的には……(下の質問)」
「効率化の背景には……(上の質問)」

Dキルはわざと、昨日の商談と同じように少しぶっきらぼうに返していく。
「……まあ、現場の負担を減らしたいってことだよ」

その瞬間、B作の動きが止まる。
(現場の負担? それは具体的にどういうことだろう。でも、ここで変な質問をしたら『そんなことも知らないのか』と思われるかも……)
沈黙を恐れたB作は、深掘りを諦め、別の用意していた質問へと逃げてしまった。

「ストップ」
Dキルが進行をさえぎった。

「B作君、今、何を考えていた?」

B作は肩を落とし、正直に打ち明けた。
「……『現場の負担』の意図をもっと聞かなきゃいけないのは分かっていました。でも、もし的外れなことを聞いて、呆れられたらどうしようって思ったら、言葉が出てこなくて……。昨日の商談でも、ずっとその『恐れ』がありました」

C一郎が指摘した通り、B作は「意義は理解しているが、知らないことが露呈することへの恐れから自信が持てない」のである。

DキルはC一郎から説明を受けた「Will*Skillマップ」を思い浮かべていた。
やはりB作はBゾーンとCゾーンの間に立ち止まっているのである。

Chapter 2:「訊く」前に「聴く」ことの意味

Dキルはホワイトボードに大きな文字で書いた。

『訊く(Ask)』前に『聴く(Listen)』

「B作君、君は今『いい質問をしよう』という自分のパフォーマンスにばかり意識が向いている。だから、相手の反応が怖くなるんだ。でも、営業の本来の目的は何だった?」

「……相手の課題を解決すること、です」

「そうだ。そのためには、テクニックとして質問を『訊く』前に、相手の言葉を、背景にある感情ごと『聴く』ことが重要なんだ。これを『傾聴』という。相手が話している最中に『次は何を訊こうか』と考えるのを一度やめてみてくれ。まずは、相手の言ったことをそのまま受け止める。わからないことは『わからないので教えてください』と素直に言えばいい」

Dキルは続けた。
「同期のA子さんがなぜ上手くいっているか。彼女はスキルの完成度が高いわけじゃない。ただ、相手の関心事に純粋な好奇心を持って『聴いて』いるから、相手も安心して心を開くんだよ」

B作はハッとした。自分は「できる自分」を演じようとするあまり、目の前の「お客様」を見ていなかったのではないか。

「もう一度やってみよう。今度は上手く訊こうとしなくていい。相手が大切にしていることは何か、それを見つけるために『聴いて』みてくれ」

Chapter 3:変化の兆し ―― 相手のことを知ろうとする

2回目のロープレ。Dキルが「現場の負担が大きくてね」と漏らしたとき、B作はノートから目を離し、Dキルの目を見た。

「現場の負担、ですか……。それは、具体的にどなたが一番苦労されている状況なんですか?」

それは「下の質問」というスキルの形を借りてはいたが、B作の心からの「知りたい」という好奇心が乗った問いかけだった。

部長役のDキルは、今度は少し表情を和らげて答えた。
「……実は、入社3年目くらいの若手が、単純作業に追われて疲弊していてね。彼らにはもっとクリエイティブな仕事をしてほしいんだよ」

「そうだったんですね。部長は若手の皆さんの成長を、本当に大切に考えていらっしゃるんですね」
B作の言葉に、自然と実感がこもる。

「……まあ、そうだな」
Dキルの口元に、微かな笑みが浮かんだ。

ロープレを終えたB作の顔からは、先ほどまでの悲壮感が消えていた。
「Dキルさん、なんだか少し、商談が怖くなくなりました。完璧じゃなくてもいい、相手のことを知ろうとすればいいんだって」

その様子をドアの隙間から見ていたC一郎は、満足げに頷いた。
「ティーチングで型を教え、コーチングで心の壁を取り払う。いいコンビになってきたじゃないか」

B作はまだ完璧ではない。しかし、Will*Skillマップの「恐れ」を乗り越え、確実な一歩を踏み出した。

(つづく)

「上の質問」「下の質問」についてはこちらから[Biz小説]第4話:雑談力と質問力で仮説を深掘りする

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